NYcity 日本の法体系では「私的自治の原則」というものがありまして、一般的に、「契約」については当事者間で自由に定めていいですよ、というのが原則になっています。
 もちろん人を殺傷する契約などはダメなんですが、そういった極端な例じゃなくても、原則に対する例外として法律の規制がかかっているものがいくつかあります。

 「建設工事の請負契約」もその一つです。

 建設工事の請負契約に関しては、建設業法という法律で一定の規制がされています。

 まず、大事な前提として、対等な立場で公正に契約し、誠実に履行しなければならないということが定められています。

(建設工事の請負契約の原則)
第18条 建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。

 そして、契約内容に関しても、細かく指定されています。

(建設工事の請負契約の内容)
第19条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
① 工事内容
② 請負代金の額
③ 工事着手の時期及び工事完成の時期
④ 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
⑤ 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
⑥ 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
⑦ 価格等(物価統制令 (昭和二十一年勅令第百十八号)第二条 に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
⑧ 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
⑨ 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
⑩ 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
⑪ 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
⑫ 工事の目的物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
⑬ 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
⑭ 契約に関する紛争の解決方法
(2項以下略)

 すなわち、上記の14の事項を全て書面に記載して契約を締結しなければならない、ということになります。したがって、法律上は、「契約書がない」ということはあり得ない、というわけです。

 また、契約を締結する前に、見積りを出さなければならないのですが、それも法律で定められています。

(建設工事の見積り等)
第20条 建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際して、工事内容に応じ、工事の種別ごとに材料費、労務費その他の経費の内訳を明らかにして、建設工事の見積りを行うよう努めなければならない。
2 建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでの間に、建設工事の見積書を提示しなければならない。
3 建設工事の注文者は、請負契約の方法が随意契約による場合にあつては契約を締結する以前に、入札の方法により競争に付する場合にあつては入札を行う以前に、第十九条第一項第一号及び第三号から第十四号までに掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までに、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な政令で定める一定の期間を設けなければならない。

 ちなみに、上記の14の事項のうち、「①工事内容」に関しては、「建設業法令遵守ガイドライン」で次のように例示されています。

 元請負人が最低限明示すべき事項としては、

① 工事名称
② 施工場所
③ 設計図書(数量等を含む)
④ 下請工事の責任施工範囲
⑤ 下請工事の工程及び下請工事を含む工事の全体工程
⑥ 見積条件及び他工種との関係部位、特殊部分に関する事項
⑦ 施工環境、施工制約に関する事項
⑧ 材料費、労働災害防止対策、産業廃棄物処理等に係る元請下請間の費用負担区分に関する事項

 が挙げられ、元請負人は、具体的内容が確定していない事項についてはその旨を明確に示さなければならない。
 施工条件が確定していないなどの正当な理由がないにもかかわらず、元請負人が、下請負人に対して、契約までの間に上記事項等に関し具体的な内容を提示しない場合には、建設業法第20条第3項に違反する。

 例示ではありますが、事実上上記8点に関してはきちんと明示することが求められているといえるでしょう。

 その他、「不当に低い請負代金の禁止」(19条の3)や「一括下請負の禁止」(22条)などもありますが、これらはいずれ改めて書きたいと思います。