tree02 ADR法の、時効の中断効について、復習する機会がありましたので、自分の備忘のために書いておきます。

 ADR法、すなわち「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」において、法務大臣の認証を受けた認証紛争解決機関(行政書士ADRセンター東京はコレに当たります。)を利用する法律上のメリットの一つとして、「時効の中断効」というものがあります。

 これは、認証紛争解決機関によって解決に至らなかった紛争の当事者が、その後訴えを提起して裁判となった場合に、請求権の時効が中断する効果が、裁判を始めた時(訴えた時)ではなく、認証紛争解決機関における手続きの中で請求をした時になりますよ、というものです。
 この時効中断効を認める趣旨としては、紛争解決に向けて話し合いを行っている間に時効が完成してしまうと、認証紛争解決機関の利用についてインセンティブが働かないため、これらを利用した場合の特例の1つとして認められたものです。

 まぁ実務的に当事者がどこまでメリットを感じるかは様々な意見があると思いますが、立法の段階ではメリットの一つとして位置づけられており、現在でもこの点は変更されていません。

 ところが、認証紛争解決機関の規則等によっては、そのメリットを享受するためのシステムが複雑になってしまっていて、必ずしも分かりやすいものではなく誤解を生じさせやすいとして、法務省からも注意喚起がされています(かいけつサポート通信第9号等参照)。

 まず、時効中断効の条文は以下のとおりです。

■裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律
第25条 認証紛争解決手続によっては紛争の当事者間に和解が成立する見込みがないことを理由に手続実施者が当該認証紛争解決手続を終了した場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした当該紛争の当事者がその旨の通知を受けた日から1月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、当該認証紛争解決手続における請求の時に、訴えの提起があったものとみなす。(以下略)

 ご覧頂ければお分かりになるとおり、時効中断効の効力発生時は「請求の時」、法律効果としては「訴えの提起があったものとみなす」です。

 この点、要件は次の4点と言われています。(「ADR法概説Q&A」67頁より)

ア 紛争の当事者の実施の依頼によって認証紛争解決手続が実施されたこと
イ アの認証紛争解決手続によっては紛争解決についての合意が成立する見込みがないことを理由に手続実施者(調停人)が当該認証紛争解決手続が終了したものであること
ウ 認証紛争解決手続の実施の依頼をした紛争の当事者がイの終了の通知を受けた日から1ヶ月以内に訴えを提起したこと
エ ウの訴えは、認証紛争解決手続の目的となった請求についてのものであること

 ポイントは、イの要件ですが、
・手続実施者(調停人)が、
・「和解が成立する見込みがないこと」を理由に、
・当該認証紛争解決手続を終了した
 ことが必要になります。

 したがって、手続実施者(調停人)がその事案に対して選任される前に、事案が終了してしまう場合は、イの要件を満たし得ないので、時効中断効が発生し得ないことになるのです。

 一般的には、紛争の一方当事者(申込人)から申込みがあった場合、他方の当事者(相手方)に対して応諾するかどうかの問い合わせを行いますが、多くの認証紛争解決機関において、この問い合わせを手続実施者(調停人)の選任前に行うという運用がされているようです。
 行政書士ADRセンター東京においても、調停人が選任されるのは、通常相手方の応諾があった後です。

 結果として、申込みをされた(いわゆる調停実施契約締結)だけで相手方が不応諾だったり、相手方が応諾しても調停人が選任されずに何らかの理由(申込人が申込みを撤回する等)で手続きが終了したりした場合には、要件イが充足せず、時効の中断効は発生しないことになります。
 つまり、相手方が不応諾の場合でも調停人が選任されていれば「和解が成立する見込みがない」と判断される余地がありますが、調停人が選任されていなければ、判断する主体が不在なので、その余地すら無いというわけです。

 この点、申込人が申し込みを行っただけで「時効が中断した(不調になっても裁判にすれば大丈夫)」と誤解されないように、事前に(重要事項説明などの段階で)きちんと案内することが、各認証紛争解決機関においては求められているといえます。

 その他、時効中断効の効力発生時は、前述のとおり「請求の時」なので、申込み時点で請求が明らかになってないような場合については、調停開始後の期日が効力発生時となることもあり得ます。この点も各関係者、特に手続実施者(調停人)は常に留意する必要があると思われます。